フラーレン超伝導体の構造と物性


 C60単結晶中にアルカリ金属,アルカリ土類金属およびランタノイド金属原子を挿入して,AxC60 (A: 金属原子)と言う組成の結晶を作ると,一部の結晶相では超伝導が実現することが知られています.最初に金属ドープC60超伝導を発見したのは,ベル研究所のHebardらのグループでした.1991年のことです.C60超伝導は,90年代を通じて,固体物理,固体化学の話題の一つであり,90年代を通じて多くの研究が行なわれました.その結果,金属ドープC60における超伝導の一端が見えてきました.すなわち,金属ドープC60の超伝導は,基本的にBCS理論の枠組みで説明できるというもので,結晶の格子定数の増加とともに,超伝導転移温度(Tc)が上昇していきます.これまでのところ,常圧で最も高いTcを示すのは,現在,大阪市立大学の理学研究科(当時はNEC基礎研究所)におられる谷垣先生が発見されたRbCs2C60の33 Kです.

 これとは別に,高圧で40 Kの超伝導を示すものも発見されています.Cs3C60がそれです.Cs3C60は,常圧では超伝導転移を示しませんが,圧力付加とともに,超伝導体となり,圧力が増加するとTcが上昇します.これは,他のC60超伝導体の性質とは大きく異なっています.我々は,1998年以降Cs3C60の圧力誘起超伝導機構の解明のために,常圧から高圧までの領域で構造と物性の研究を行ってきました(最近の研究成果は2002年 Physical Review Bの5月号に掲載予定です).また,CaxC60系についても圧力付加によってTcが上昇することが見いだされており,現在これの高圧物性の研究にも取り組んでいます.また,金属原子を挿入されたC60結晶は,一次元や二次元のポリマーを形成するものもあり,低次元物性の観点から非常に興味深い研究対象です.我々は,フラーレン系低次元化合物に関する研究も行っています.最近,金属原子を金属内包フラーレン結晶にインターカレートした金属外接・内包フラーレン複合物質系についての研究を開始しました.C60に対するインターカレーション化学をベースに,対象をフラーレン全体に広げて新奇な物性を有するフラーレン系新物質を開発するのが我々の目標です.これは,バルクでの新素材開発に向けた一つのアプローチと考えています.


戻る